
島根県雲南市大東町には、昭和60年頃まで大東鉱山と呼ばれる鉱石の採掘場がありました。
今回は、その鉱山事業の一環として昭和後期に開窯された「大東窯」の大西さん母娘にお話をうかがいました。
レアメタル由来の釉薬

当時300人ほどが従事していた大東鉱山では、レアメタルの一つ「モリブデン」が採掘されていました。
原石は銀白色で、独特な光沢を放ちます。また硬度が高く耐久性に優れ、高融点のため熱で変化しづらいという特性があります。
大東鉱山ではこの稀少な金属を釉薬に活かす研究が進められ、その結果辿り着いたのが、現在も大東窯の特色として続く「翡翠」や「鶯」とも呼ばれる深緑色でした。
銅を含む釉薬が美しい緑色に発色することは知られていますが、モリブデンが加わることで特有の結晶や質感が生まれるのだといいます。

大西:「ただ、昔からうちを知ってくださっている方から、当時とは色が違うといわれることもあります」
自然物を素材とする以上、安定した色味や質感を出し続けることはたとえ同じ時代にあっても至難の業です。
土、水、温度。世界の状態が直接的に反映される、自然界の力を拝借しているからこその揺らぎは、陶器の魅力の一つでもあります。
長く使われる器をめざして

鉱山時代そのままの建屋で今、大西さん母娘が作るのは、どれも日々の生活になじむやさしい味わいの器や雑貨です。
大西:「とにかく使いやすいように。それから、食器棚に収まりやすいように」
大西さんの作陶の先にはいつも、使うひとの暮らしがあります。
だからまず、自分自身が使い手になってみる。新しいものを作るときには、卓上に置いて、洗って、収めて、その使い勝手を確かめることが重要な工程の一つになっているのだとおっしゃいます。
できるだけ長く使ってもらいたい――。
めざすのはまるで家族のように、暮らしの一部になること。

大西:「実は母も、ここで作陶していたんです」
もともと家業として続く窯元だったわけではないけれど、気づけば今、母娘三代に渡って一つの窯を守っています。
「母」の姿を見て育ち、やがて自身も「母」となり、その間も作陶を続けてきたという大西さん。
子どもの頃、陶房で土に触れた記憶が思いのほか心に深く根付いたのは、大西さんにとってそれが「母」との時間そのものだったからなのかもしれません。
母娘の関係性を土台として暮らしへの想いを深い部分で分かつことができるからこそ現れる、包み込むような味わい。
大西さんの器には、家族の健康を育むお台所や、カーテンの揺れる窓辺で静かに佇む小さなお地蔵様のような気配があります。
出会いは、海も山も越えて

器も雑貨も、今や全国各地から注文が入るそう。
大西:「出雲のお店で買って帰った方が、もう一つ欲しいんですって連絡をくださることがあります。それからこの間はお店で見て興味が湧いたから来ましたって、ドイツの男性がここまで一人でお見えになって」
ドイツといえば、家族との時間を過ごすために定時で仕事を終えることが定着している文化圏。また、日曜日はどのお店も閉めて家の中で過ごす習慣があるといわれています。
レンタカーを使ってはるばる大東までやって来たというその男性は、きっと大西さんの器から「家族」のイメージを感じ取ったのでしょう。
こうしたお話は、大西さんが使い勝手を大切にして、また暮らしを重んじて作陶なさっているからこその出来事。
器に込められた「人の暮らしに寄り添いたい」という想いがきちんと伝わっていることの証だろうと思います。
新しいことは大歓迎

どれもつい手に取りたくなる愛らしいフォルムの干支の置物は、一つひとつ型抜きをしてつくられます。
中でもウサギは神話の地・出雲を象徴するモチーフとされ、その年によらず人気があります。
基本の形からアレンジして、お香立ても生まれました。

大西:「新しいことはどんどん取り入れたいですね。それがここを続けることにつながると思っています」
島根や岐阜に点在していた国内のモリブデン鉱山は、資源の枯渇や輸入材料との価格競争の末昭和後期をめどにすべて閉鎖されました。原料も人も環境も、時の流れとともに変わっていきます。
継続のためには外部の変化を受け入れることが不可欠。だから、形はできるだけ柔軟に。
一方で、この場所を守るために、姿勢や心の持ちよう、技術は伝えていきたい。
大東鉱山の時代から続く色と質感を大切に、人の暮らしを思いやる作陶。その上で使い手のニーズに応えていくこと。
次の世代に託すのは、使い勝手に妥協しない民藝のこころです。
暮らしに誠実であることを大切に。

盛夏の緑を背景にした陶房には、気取らない親しみやすさと地に足の着いた風格のようなものが漂っていました。
滋味あふれる大東窯の器は、神門通りLOCAL-IZMにてお取り扱いしています。ぜひご覧ください。
【大東窯】
〒699-1224 島根県雲南市大東町東阿用481
電話番号:0854-43-2056
営業時間:9:00~17:00
※4月~11月は陶芸体験も実施(お一人につき1,500円)
【LOCAL-IZM】